拙著『背景の作画教室』の内容を紹介していきたいと思います。
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『背景の作画教室』の特徴
過去の著作である『デジタルイラストの「背景」描き方事典』は個々のプロップの描き方に焦点を当てて解説していくスタイルで、当ブログの解説記事に近いスタイルで多数の解説をしていくものでした。
今回の『背景の作画教室』についてはイラスト全体を描いていくために必要なことを解説する本となっています。
そのため、そもそも何を描くのかということを決める段階の話や、仕上げ時にさらに良くするためのテクニック、完成後に作品のタイトルを決める工程など「背景イラスト作品」として創り上げるための本となっています。
本書のはじめにでも書きましたが、『背景の作画教室』は入門書として丁寧に解説しましたが、ただ読んで知識として得るだけでなく中級者以上になっても長く使い続けることができるように「使える」ことを意識して作成しました。
本書に多数あるリストや表、チェックリストは今後の創作において役に立つ道具として使っていただくことを想定しています。
CLIP STUDIO PAINTを使い始めて慣れていないと使うたびにパース定規や3D機能を使用した物の配置に手間取ったりしますがそれらのコツについてもポイントを絞って解説しているので、「あれ、どうやるんだっけ?」となったときにもサラッと確認することができるようになっています。
それでは続いては章ごとに内容の紹介をしていきます。
『背景の作画教室』1章_動画解説は音声や字幕も入っていて丁寧
まずは1章の紹介をしていきます。
1章はこんな感じで雲や遠景の山や草原といった背景の基本的な内容の解説をしていきます。
サッと読んでおしまいにせずに実際に練習してみるきっかけになればと、目安の練習時間も記載しています。
また、入門用ということで使用している色やブラシを紹介しつつ丁寧に解説しています。この章の解説は動画解説があることが特徴です。
本書には12本の動画がありますが、そのうち5本がタイムラプス動画ですが残りの7本は音声付の解説動画になっています。
タイムラプス動画というのは基本的には作例を作る際の副産物なので書籍のおまけとして購入者特典としては定番のものだと思います。
しかし、1章の解説の7本の動画については副産物ではありません。
なんならこの動画を撮影するために一度描いた作例を最初から書き直したりしました。
もはや書籍のおまけではなくパルミーなどにあるような動画イラスト講座といっても遜色ないレベルではないかと思います! (さすがにそれはいいすぎ?)
パルミーはサブスクですが、他のサイトでこの手の動画講座で買い切りのものとかは書籍の何倍もの価格で販売されていたりするのでそれが書籍のおまけで付いてくるのはお得ではないかと!
それでは1章の動画の特徴を見ていきましょう。
動画の特徴① 音声解説
▲特典動画のサンプル
1章は入門書としての導入として、作例を真似していけるように動画の解説を用意しました。
僕自身が無音のイラスト作成動画を長時間視聴し続けることが得意ではないので、テロップによる解説と音声をつけました。
ぜんすけ
なんと著者である僕自身が声も入れています
普段から配信などやっているわけではないので素人仕事ではありますが、一応こんな感じでノイズ対策などもしてみました。
OBSというYouTuberさんたちがみんな使っているソフトで声を収録したので、ネットで配信者向けに設定を解説してくれているYoutube動画とかを参考に設定しました。
ちなみに一番上にあるClarity Vxというやつは有償のソフトですね。
これは有償なだけあってなかなかしっかりノイズ消してくれるやつなので、実際に自分も録音中に近所を救急車が通ったので1回撮りなおしたんですが、後から聞いてみたら撮りなおす前のでも完全に除去してくれていたので問題ありませんでした。
Clarity Vxを使用するために色々とやりましたが結局StudioRackというのを入れてOBSでプラグインとして使用する方法に落ち着きました。
▲こちらのブログ記事を参考にしました。
動画の特徴② デジタル作画画面なのに手の画像付き
この動画の特徴は音声が入っているだけでなく手の画像が入っていることも特徴です。
アナログ画材の動画解説の場合は当然ですが、手が動画内に映りますが、デジタルイラストの解説動画は普通は入りません。
デジタル作画の解説動画の難点として手が入っていないこともあってパッと見でどこを描いているのかがわかりにくいという問題がありました。
もちろん手が入っていなくてもブラシ先は表示されているので描いている場所自体はわかるのですが、ブラシサイズが小さいときなど、今なにやっているのかわかりにくくなったりするのです。
今回の動画ではこの問題を手の画像を入れることで解決している点も目新しいところだと思います。
動画の特徴③ キーボードを表示
スペースの関係上すべてのキーではないですが、よく使用するショートカットキーのキーボードを表示しています。
これによって今ブラシサイズを大きくしているなというのも確認したりできるようになっています。
その他いろいろがんばりました
それほど多くの箇所ではないですがワイプで部分的な解説を行ったりもしています。
そして地味にこういった画面右上に表示されているサイドテロップも自分で作っています。
動画制作というのもこだわろうと思うといくらでもやる余地があるので本当に大変だなと思いました。
こんな感じで色々工夫してきましたが、何より大変だったのは草原やまとめの動画の尺が長かったことですね。
厚塗りの基本の動画や雲の描き方などは数分の動画なのでいいのですが、草原とまとめの二つは20分とか50分あるので編集作業の手間もそれだけ増えるので正直一回心折れかけました。
ゴールデンウイーク期間丸ごと動画編集に費やしたけど終わる気配がなかったときの絶望といったら……。(まぁ、結果としては本の原稿の校了後に毎朝地道にやりつつ三連休とかを費やしてなんとか完成したわけですが)
そもそも個人的な印象としては解説動画は長尺になるほど見てもらうの難しいだろうという認識なので、もしかしたらろくに見てもらえないかもしれないのに逆にこの工数のえげつなさはなかなかなしんどさがありますね。
とはいえ、だからといって手を抜いたらそれこそ見てもらえるようなものにならないので、極力解説を入れて何をやっているのかわからない時間を減らすようにするなどこころがけました。
ちなみに1章の解説動画については基本的に等倍速の解説になってます。よほど無駄なところは編集で秒単位でカットした箇所もありますが大幅なカットはしておらず、倍速とか早送りを使っていないので実際の作業している感覚のまま視聴できるようになっています。
『背景の作画教室』2章_キーワードリストについて
続いては2章の紹介をしていきます。
2章は何を描くかという解説をしています。
どうやって描くかというテクニックやメイキングのイラスト解説は多くの本でも語られていますが、そのまえの何を描くのかが決まっていないと実はイラストは完成するどころか描き始めで延々と足踏みしてしまうのです。
その解決策としてこの章で紹介している方法がセルフ指示書というもので、「場面」「題材」「雰囲気」という3種類のキーワードを使った方法です。
そのため、この章は大半が以下のようにキーワードで埋め尽くされています。
2章のキーワードリストは一見すると言葉の羅列でページが稼ぎのように思うかもしれませんが、これがまったくの逆でして、他の普通のページよりもよほど時間がかかっているのです。
しりとりゲームをイメージしていただければわかると思いますが最初のうちはいいのですが、続けるほどに既出の言葉ばかりになってきて難易度が上がっていきますよね。
これを一人でやり続けているようなものなのですが、世の中色々な物が無限にあるので、その中でイラストなど創作活動に役立つキーワードを選ぶというのは途方もない作業でした。
これは執筆期間中に追加し続けてたことでかなりのリストになったのではないかと思います。短期間でやれるような代物ではなかったなと振り返ってみても思います。
これは下手するとただの文字の羅列として流されてしまいかねないと思うので、このキーワードリストの価値については語らせてください。
イラスト技法書のアイデア出しの解説
多くのイラスト技法書は描き方の説明はしていても、何を描くかについては特に何も解説がないことが多いのです。
模写の練習の段階はいいのですが別の物を描こうとした段階で、そもそも何を描くかのところで止まってしまうのではないかと思うのです。
もちろんそのことについてしっかり対応されている本もありまして、例えば絵がふつうに上手くなる本ですと「テーママップ」「イメージマップ」という名前で、いわゆるマインドマップ的な手法で何を描くかを決めていく方法が解説されています。
tomato先生と楽しく学ぶ 背景の描き方講座では「言葉の連想ゲーム」として紹介されています。
これらのように発想の段階からよりそってくれる書籍が出てくるようになったのはイラスト技法書として大きな前進だったのではないかと思います。
発想法の新たな段階へ
しかし、こういったマインドマップ的な手法の問題点はそもそも自分の脳内から出せるイメージは限りがありますし、自分の知らなかったものについては発想することが不可能というところがあります。
そのため検索したりしてイメージの元になるものを調べるというのが必要になってきます。
この検索というところがかなり重要で絵がふつうに上手くなる本にも検索についても言及されているのですが、特徴的なマインドマップ的な手法のほうに目を奪われてうっかりその検索することを省略してしまったりすると上手くいきません。
この検索して調べるという工程というのはプロは当然のようにやっていたりしますが、時間もかかるので初心者のかたがつい省略してしまってもおかしな話ではありません。
本書のキーワードリストというものは、そんなこともあろうかと
「僕が代わりに一通り検索して知らべておきました」というものなのです。
もちろん世の中には本書のキーワードリストに掲載されていない様々なものがもっとあるというのは確かです。
しかし、イラストに描く機会があるものとしてはかなりカバーできたのではないかと思っています。
なので……もう頭の中からひねり出そうなんて思わなくてもOKになったのです!!
ぜんすけ
自分が描くものはこの本のキーワードリストの中にあると思えたら少し気が楽にならないでしょうか?
無限にあると思ったら延々と自分の描きたいものを決められず、思考がループしてしまいそうですが、発想しようとか思いつこうと考えなくても良くて、この中にあるんだって思える安心感。
これは今までのイラスト技法書で提供されることがなかったものだと思います。
『背景の作画教室』のキーワードリストに近いものはないのか
これまでのイラスト技法書になかったと豪語していますが、本当なのかい? と思うんじゃないかなというわけで近いものを紹介しておきます。
「ごちゃごちゃ」した絵の描き方
現代ものに絞ったものであれば既存のイラスト技法書で、『「ごちゃごちゃ」した絵の描き方』があります。
こちらの本は個別のイラストも入っていてイメージも一目瞭然なので現代ものを描くことが決まっていて描くモチーフを探すという場合にはこの本がおススメです。
このように背景パーツカタログとしてかなりのページ数で紹介されています。
『背景の作画教室』のキーワードリスト特徴は現代物のモチーフに限らず、ファンタジーやSF、自然物、などさまざまなモチーフがあるうえ、「明晰」、「刹那」といったような雰囲気を伝えるような発想を生み出すためのキーワードも多数収録しています。
そのため、ただ描くためのモチーフを探すだけでなく組み合わせてみたり現代のキーワードをファンタジーに置き換えてみたりと発想のために使いやすいようになっています。
・現代物のモチーフを探したい→『「ごちゃごちゃ」した絵の描き方』
・どんなイラストを描きたいか決まっていない→『背景の作画教室』
『背景の作画教室』のキーワードリストはただのイラストのモチーフを列挙しただけではなく、組み合わせることで新たな発想やイメージを想起させるためのツールなのです。
そのため個別のイラスト画像はない代わりに多くのキーワードを網羅する方向で制作しています。
場面設定類語辞典
こちらはイラスト技法書ではなくライターさん向けの本ですが、その場面にありそうな物や音やにおい、味などが掲載されている本です。
小説など文字でその場面を表現する際に重宝するような書籍だと思います。
場面設定類語辞典は場面を想起しやすくていい本だと思いますが、場面ごとで記載しているのでどうしてもキーワード重複も多くならざるをえませんし、1冊丸ごと使用しています。
『背景の作画教室』のキーワードリストは2章の20ページ程度の中に高密度でキーワードを詰め込んでいるため1冊丸ごとを探さなくてもよいので目的のキーワードを見つけやすくなっています。
・シナリオや小説を描きたい。もしくはイラスト場面のイメージを深めたい→『場面設定類語辞典』
・どんなイラストを描きたいか決まっていない→『背景の作画教室』
類書との違いまとめ
そんなわけでそれぞれ既存の書籍はとても有益な本がすでにあったわけですが、
ある程度イメージが固まった状態に使うものが多かったのではないかと思います。
「すみません、イラストを描きたいとは言ってみたものの何ひとつ頭の中にイメージなんてありませんでした!!」
という状態の人にこそ『背景の作画教室』のキーワードリストはうってつけのものになったんじゃないかと思います。
アイデア出しや、自分がどんなものを創りたかったのかを考えていくフェーズでこそこの本のキーワードリストは力を発揮すると思うのです。
『背景の作画教室』のキーワードリストにはモチーフだけでなく画風ジャンルのキーワードも多数掲載しています。
これによってそもそもどんな画風のイラストが描きたかったんだろうみたいなことから自問することもできます。
画風といっていますが、厚塗りとかアニメ塗りだけでなく立体物的なものも含め表現方法のキーワードがならんでいますし、「多義図形」なんていうキーワードもあったりします。「多義図形」というのはルビンの壺みたいなやつですね。
さらにお話ジャンルのキーワードとして、SF、コメディ、バトル、恋愛、群像劇…といったように並んでいたりもします。
背景のモチーフにとどまらず服や髪型のキーワードも多数掲載しているのでキャラ設定にも使えます。
あと、これが個人的には便利じゃないかなと思っているのが「暦と季節」のキーワードですね。
1月から12月の表になっているのですが、そこにその月のイベント、干支、誕生石、24節気、のキーワードが書かれています。
SNSで投稿するイラストなんかもわりとその季節ものを描いたイラストを投稿することって多いと思うので、そんなときにはこの表が役に立つと思います。
あと、p.58の複合用雰囲気キーワードは中二病をぶりかえしそうなワードが列挙されているのですがこれがかなりおススメです。
他のキーワードと組み合わせることでかなりイメージを想起するのに役に立つんじゃないかなと。
そんなわけで、この『背景の作画教室』は一度読んで知識を得ておしまいという本ではなく、使っていただけるということにも力を入れていますのでぜひこの2章のキーワードリストも今後のイラスト制作でご活用いただければと思います!
『背景の作画教室』3章_
『背景の作画教室』の3章の内容は「何を見せるか」という内容で視線誘導やバリューによる構図について解説しています。
今までの構図についての解説は「描画対象の位置や配置」のみ言及されることが多かったかと思いますが、
「明暗表現をどう配置するか」ということを重点的に解説しています。
『背景の作画教室』4章_
『背景の作画教室』5章_
『背景の作画教室』作例解説_
3章以降紹介もこの記事に追加予定ですが、全部書きあがるのに時間がかかりそうなので一旦公開しておきました!